遺言「死者の無念を希望へつなぐ」より
 惨めで恐ろしい光景だった。 長友 雪子
  
家族四人で自宅で昼食中に被爆した長友雪子さん一家は、山の中腹の防空壕へと逃げます。

 私達の家は山の中腹にあり、上の方には防空壕があったが、その防空壕へとたくさんのけが人が血をダラダラ流しながら、かけ上がっていくので、私達もすぐに防空壕に逃げ込んだ。当時警戒警報が終わったばかりで、ほっとした気持ちで防空壕を出たばかりのところをやられた人も多く、その傍には、死人やケガ人がいっぱいだった。防空壕の中では、運ばれてきたケガ人らが吐き続けていた。それも寝かされたまま、上にポッポッとふきあげて、大騒動だった。
 本当に、それは惨めで恐ろしい光景だった。隣の人は、疎開をしようとして五つになる子どもを抱いて、市内を歩いている時に原爆が落ちた。二人とも火だるま。父親は、頭に火がつき顔がジャリジャリといって焼け、顔一面が大火傷でそれでも助かったが、子どもは全身火の玉になって「アツイ、アツイ」と転げまわって焼け死んだ。女の人はもんぺなんか飛んでしまい、すっ裸で死んでいる。死んだ人が道の両側にうず高く積まれ、またプスプス燃えたままだった。
 川の縁には火傷で水が欲しかったのだろうが、水を飲もうとしてそのまま息絶えて死んでいる。そういう死骸が両岸にずらりと並んでいた。ケガ人なども、夏だから腰から上は裸で、それに火傷しているから着ることもできず、そんな姿で、まるで夢遊病のように、あっちひょろ、こっちひょろと歩いていたり、あるいは子どもを求めて気が狂ってしまった母親など、それはもう本当にひどかった。